狩猟採集民の人口密度

"World Civilizations"という世界史教科書を読んでいる。
初期人類は狩猟と採集によって生活していた。
狩猟採集経済は大きな空間を必要とする。
そのため人口は少ないまま、人々は小さな集団で生活していた。
狩猟採集民は人口を少し増やすだけでも一部が移住しなくてはならない。
だから人類は世界にどんどん移住していった…というストーリーになっている。

 

この部分で、この本はおもしろい数字を出している。
狩猟採集民は平均で一人あたり2.5平方マイルの空間を占めるというのだ。
人口密度に直すと、1平方キロメートルあたりおよそ0.15人となる。
現在の日本の人口密度となると、1平方キロメートルあたり335人。
3桁も違っていて、まったく比較にならない。
ところでこの0.15人という数字はどうやって決まっているのだろうか。

 

現代の狩猟採集民の人口密度についていくつか文献に当たってみた。
すると、ルイス・ビンフォードの2001年の書籍の数字がよく引用されている。
それによると、全世界の狩猟採集民の人口密度の平均値は0.25だ。
中央値は0.11、最大値は3.1で、単位はいずれも人/平方キロメートル。
ただし、緯度や集団サイズによって人口密度はかなり変動するらしい。
これらの数字は他の大型捕食動物の個体群密度とオーダーは変わらない。
なお、"World Civilizations"の約0.15という数字の原典は見つけられなかった。

 

狩猟採集民であったとされる縄文人についても調べてみた。
縄文人の人口密度は小山修三による1978年の研究がよく引用されている。
それによると、縄文人の人口密度がピークに達したのは縄文中期のこと。
人口密度は全体で1平方キロメートルあたり0.89人だったと見積もられている。
とくに人口密度の高かった関東では3.0人に達した。
この数字は現生狩猟採集民の人口密度より1桁大きく、現生の最大値とほぼ同じだ。

 

狩猟採集民の人口密度が他の大型哺乳類の個体群密度と違わないというのは面白い。
道具の発明は生息域の拡大に資しても、人口密度の増大にはつながらなかったらしい。

 

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現生狩猟採集民の各統計値。A. L. Johnson (2014)による。