世界史教科書、最初の1ページ

"World Civilizations"という世界史教科書を読んでいる。
最初の1ページを開くと、本文の書き出しは次のようなものだった。
「最古の完全な人類の種は約250万年前の東アフリカに生息していた。
しだいに人類はより直立した姿勢とより大きな脳容量を発達させた。」
ずいぶんツッコミどころが多いな、と思った。

 

まず現生人類、すなわちホモ・サピエンスが誕生したのは250万年前ではない。
この本が書かれた当時、最古のホモ・サピエンスの化石は約20万年前のものだった。
250万年前と20万年前では古さが一桁も違う。
図表でもエレクトゥスよりサピエンスの登場が早いというおかしなことになっている。
どうしてこんな間違いが起こったのだろうか。

 

考えられるのは、ホモ属の出現とホモ・サピエンス種の出現を取り違えた可能性だ。
この本が書かれた当時、最古のホモ属の化石は233万年前だった。
さらに当時、最古の石器はエチオピアのゴナで見つかった250~260万年前のもの。
これらの年代は「約250万年前」に近い。
これらの遺物を最古のホモ・サピエンスの証拠だと勘違いしたのかもしれない。

 

ちなみに、"World Civilizations"の第7版が書かれたのは2014年だ。
それから4年が経ち、現在では人類進化に絡む多くの年代が改訂されている。

 

最古のホモ・サピエンスの証拠は、現在では約30万年前と考えられている。
2017年にモロッコのジェベリルーから産出した約30万年前の人骨が報告された。
それまでは2005年報告のエチオピアのオモ産の約20万年前の頭骨が最古だった。
2005年より前の教科書には最古のホモ・サピエンスは約16万年前と書いてある。
かつて、最古のホモ・サピエンスの証拠はH・s・イダルトゥの16万年前だった。

 

最古のホモ属の証拠も、約280万年前に更新されている。
エチオピアのレディゲラルから出た顎骨の年代が2015年に280万年前とされた。
最古の石器の証拠も、現在では約330万年前のものとされている。
ただし、最古の石器は最古のホモ属の証拠とはならない。
アウストラロピテクス類の手が石器を作れる構造だったとする研究がある。
そのため、石器を作れたのがホモ属だけだったという考えはすでに廃れている。

 

次に、人類の祖先がしだいに姿勢を直立させていったとする記述も間違いだ。
オロリンの大腿骨化石など人類の祖先系統が古くから直立していた証拠がある。
人類は少なくとも約600万年前には完全に直立していたと考えられている。
次第に姿勢を直立させるように人類の祖先を並べた絵を「人類進化の行進図」という。
スティーブン・ジェイ・グールドが『ワンダフル・ライフ』の中で批判した図だ。
"World Civilizations"の記述は「人類進化の行進図」そのものだ。

 

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"World Civilizations: The Global Experience, 7th edition"より。